愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
(15)光明
「あっちぃ。ちょっと待ってろ」


太一郎は紙袋やスポーツバッグを玄関に置いたまま、部屋の中に駆け込みエアコンのスイッチを入れた。

古いアパートなせいか、引越し当初は鼻につく臭さを感じたものだ。だが、それにも次第に慣れ、今ではむしろ、奈那子の甘く清潔な匂いがカーテンや布団に染み付いている。

奈那子の入院中、太一郎は初めてこの部屋でひとりになった。

布団に入ると妙な気分が納まらず、思わず右手が動いてしまい……。


(こんなことやってる場合じゃねえだろうが)


朝には軽く自己嫌悪に陥る太一郎だった。


「奈那子! お前は持つなって」

「そんなに心配しないで。太一郎さんのおかげで元気になりました。少しくらいの荷物は平気です」


確かに顔色はよくなったが、細い手足は相変わらずだ。

太一郎はTシャツの肩袖で顔の汗を拭いながら奈那子の傍まで行く。そして、わざときつい表情を作り、少し凄んで見せた。


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