愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
汲み取り式のトイレがある家は古い家が建ち並ぶ地域だ。自然とお年寄りも多く、しかもひとり暮らしである。
作業中はバケツで数杯の水を流してもらう。しかし、それすらできないお年寄りもいた。
トイレ掃除などしたことがない。トイレの仕組みがどうなっているのかさえ知らなかった太一郎だ。最初はそういった器具に触れることに躊躇いを覚えたが……。
ある家で、骨が折れてから右手の自由が利かなくなったというおばあさんがいた。
洗面器で少しずつ水を運ぶ姿が、祖母の皐月と重なる。気づいたら、太一郎はバケツを手にしていた。
『ありがと。本当にありがとね』
おばあさんのお礼は心からの言葉だ。
こんなことで、たったこれだけのことで、自分はこんなにも幸福になれたのに。なぜ、これだけのことができなかったのか。
苦い思いが太一郎の良心を責め立てた。
いつの間にか、時間があれば力仕事も手伝うようになり……。お礼にと渡された梅干入りのおむすびは、三ツ星レストランのフルコースより美味しかった。
(何かの誤解に決まってる)
そして、駆け付けた太一郎を待ち構えていたのは……。
作業中はバケツで数杯の水を流してもらう。しかし、それすらできないお年寄りもいた。
トイレ掃除などしたことがない。トイレの仕組みがどうなっているのかさえ知らなかった太一郎だ。最初はそういった器具に触れることに躊躇いを覚えたが……。
ある家で、骨が折れてから右手の自由が利かなくなったというおばあさんがいた。
洗面器で少しずつ水を運ぶ姿が、祖母の皐月と重なる。気づいたら、太一郎はバケツを手にしていた。
『ありがと。本当にありがとね』
おばあさんのお礼は心からの言葉だ。
こんなことで、たったこれだけのことで、自分はこんなにも幸福になれたのに。なぜ、これだけのことができなかったのか。
苦い思いが太一郎の良心を責め立てた。
いつの間にか、時間があれば力仕事も手伝うようになり……。お礼にと渡された梅干入りのおむすびは、三ツ星レストランのフルコースより美味しかった。
(何かの誤解に決まってる)
そして、駆け付けた太一郎を待ち構えていたのは……。