愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
万里子の申し出を、太一郎は断ろうとした。
なぜなら、この千早物産に桐生の手が及んでは困ると思ったからだ。万里子の親切に甘え、彼女の実家に迷惑はかけられない。それこそ、卓巳が怒るに決まっている。
理由を説明せずに断ろうとする太一郎に、万里子は言ったのだ。
『藤原に問題があるの? だったら父には“伊勢崎さん”の名前を言っておくわ。わたしが幼稚園でボランティアさせていただいたときに、ご夫婦に色々お世話になったって、ね?』
『え? いや、でも、親父さんに嘘をついてもいいのか?』
驚いて尋ねる太一郎に、万里子は肩を竦め、悪戯っぽく微笑んだ。
『だって、お父様と卓巳さんは別だもの』
それが親子なのだ、と思うと、太一郎は新鮮な感動を覚えていた。
思えば彼自身、両親を無条件に信頼し、互いに支え合う関係など築いたことがない。ここまで困っても、父や母に頼ろうとは一切思わなかった。
だが母はともかく、わずかでも心を通じ合わせた父なら、太一郎が頼めば窮状を救ってくれるかもしれない。しかし、上海までは行けず……連絡先も聞かずじまいだった。
なぜなら、この千早物産に桐生の手が及んでは困ると思ったからだ。万里子の親切に甘え、彼女の実家に迷惑はかけられない。それこそ、卓巳が怒るに決まっている。
理由を説明せずに断ろうとする太一郎に、万里子は言ったのだ。
『藤原に問題があるの? だったら父には“伊勢崎さん”の名前を言っておくわ。わたしが幼稚園でボランティアさせていただいたときに、ご夫婦に色々お世話になったって、ね?』
『え? いや、でも、親父さんに嘘をついてもいいのか?』
驚いて尋ねる太一郎に、万里子は肩を竦め、悪戯っぽく微笑んだ。
『だって、お父様と卓巳さんは別だもの』
それが親子なのだ、と思うと、太一郎は新鮮な感動を覚えていた。
思えば彼自身、両親を無条件に信頼し、互いに支え合う関係など築いたことがない。ここまで困っても、父や母に頼ろうとは一切思わなかった。
だが母はともかく、わずかでも心を通じ合わせた父なら、太一郎が頼めば窮状を救ってくれるかもしれない。しかし、上海までは行けず……連絡先も聞かずじまいだった。