愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
郁美自身、太一郎に特別な感情があるわけではない。

ただ久しぶりに、セックスが楽しめそうな男をみつけて、期待しただけだ。

あの、自分に反抗的な……若い男の野獣のような身体を、思う存分堪能するつもりだったのに。想像するだけで郁美の女の部分が疼いた。

電話の向こうでは等が郁美の名を呼んでいる。仕方ない、今夜はこの男で間に合わせよう。どうせ、金さえ払えば十代の少年だって買えるのだ。


ただ、藤原の金は魅力的だった。あの太一郎をセックスで骨抜きにできたら、彼を通じて少しでもその恩恵に与りたいと思っていた。

だが別に、郁美が損をしたわけではない。

しかし、彼女を“ババア”と呼び、“メス豚”と蔑んだ。あのツケだけはなんとしても払わせてやりたい。そうでなければ、郁美の腹の虫が治まらない。


郁美はひとつのことを思い浮かべ、途端に声色が変わった。


「じゃあ、ねぇ。等さんにお願いがあるの。聞いてくれるぅ?」



……郁美は笑いを堪えながら電話を切った。

等はたいしたことはできない男だが、これくらいなら失敗はしないだろう。

郁美が声を立てて笑おうとした瞬間、置いたばかりの電話機が鳴り始める。

面倒くさそうに受話器を取った郁美だったが、少しすると彼女の表情が目に見えて変わって行き……。


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