愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
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「佐伯! 佐伯、どこだ!? いないのか? 返事しろっ」
夏休み中でも大学構内はそれなりに学生がいる。
スポーツ系の部に所属していたり、理系だと実験もある。それ以外にサークル活動もあれば、当然、就職活動の学生もいた。
だが、さすがにお盆の期間中は事務局が休みになるため、無断で出入りはできなくなる。
その大学の構内に、太一郎はいた。
彼は清掃会社の社員として、入退出の許可証を持っている。退職願いを出し、今日は休みを取っているが、八月一杯は真面目に働く予定だ。
その間に、後輩の北脇を説得し、これ以上茜を巻き込まないように頼むつもりだった。
茜の電話は、
『北脇さんから大学に呼び出されたの……今、大学の……最初にドリンクを買ってくれた自販機の前に』
――それだけ言って切れた。
茜がなぜ、北脇の呼び出しに応じたのか。北脇が茜に何をするつもりなのか。太一郎にはサッパリわからない。
だが、放っておくわけにはいかなかった。
太一郎は、仕事先でトラブルがあった、とだけ奈那子に告げ、アパートを飛び出したのである。
「北脇、どこかで見てるのか!? 出て来いよ! 佐伯を巻き込むなっ!」
そこは茜と再会した日、どことなく怯えた彼女にスポーツドリンクを買って渡した場所だった。
茜は太一郎の頬を拳で殴り、『許してあげてもいい』と初めて笑顔を見せてくれた。
「――クソッ!」
足下のゴミ箱を思い切り蹴飛ばす。鉄製のゴミ箱は備え付けで……太一郎の足が痛いだけだった。
「佐伯! 佐伯、どこだ!? いないのか? 返事しろっ」
夏休み中でも大学構内はそれなりに学生がいる。
スポーツ系の部に所属していたり、理系だと実験もある。それ以外にサークル活動もあれば、当然、就職活動の学生もいた。
だが、さすがにお盆の期間中は事務局が休みになるため、無断で出入りはできなくなる。
その大学の構内に、太一郎はいた。
彼は清掃会社の社員として、入退出の許可証を持っている。退職願いを出し、今日は休みを取っているが、八月一杯は真面目に働く予定だ。
その間に、後輩の北脇を説得し、これ以上茜を巻き込まないように頼むつもりだった。
茜の電話は、
『北脇さんから大学に呼び出されたの……今、大学の……最初にドリンクを買ってくれた自販機の前に』
――それだけ言って切れた。
茜がなぜ、北脇の呼び出しに応じたのか。北脇が茜に何をするつもりなのか。太一郎にはサッパリわからない。
だが、放っておくわけにはいかなかった。
太一郎は、仕事先でトラブルがあった、とだけ奈那子に告げ、アパートを飛び出したのである。
「北脇、どこかで見てるのか!? 出て来いよ! 佐伯を巻き込むなっ!」
そこは茜と再会した日、どことなく怯えた彼女にスポーツドリンクを買って渡した場所だった。
茜は太一郎の頬を拳で殴り、『許してあげてもいい』と初めて笑顔を見せてくれた。
「――クソッ!」
足下のゴミ箱を思い切り蹴飛ばす。鉄製のゴミ箱は備え付けで……太一郎の足が痛いだけだった。