愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
「い、いたいって。放して……太一郎」


ラブホテルから出ると、池袋の駅に向かって太一郎はズンズン歩いて行く。

茜が抵抗すると、太一郎は彼女の手をパッと放した。そして、いきなり怒鳴ったのだ。


「この……バカヤロウがっ!」

「わ、わかってる、でも」

「わかってねぇっ! あんな場所にノコノコついて行きやがって。男をなめんなよ! 思いどおりにいかなかったら、奴はお前を犯すに決まってんだろうがっ!? 理性なんかすっ飛ばすのが男なんだよ!」

「ごめんなさい……謝るから……だから」

「謝らなくていい。――もう、二度と電話して来るな」

「太一郎……」

「俺は奈那子と結婚する。ガキに振り回されるのはもうゴメンだ」


太一郎は茜に携帯を放り投げ、クルリと背中を向け歩き出した。

携帯に北脇との会話など録音されておらず、あの台詞は太一郎のハッタリだった。同時に、太一郎がどれほど茜の身を案じ、必死で助けに来てくれたか。

怒ってあの場に茜を置き去りにしなかったのも、逆切れした北脇に茜が傷つけられることを心配したからだろう。


もう、好きな人の背中を追いかけることはできない。

人の優しさや思いやりを試したことを、心から後悔する茜であった。


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