愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
(19)危険な使者
電車の揺れに身を任せながら……太一郎は窓の外を眺めた。
外はもう真っ暗だ。こんなに遅くなる予定ではなかったのに、久しぶりに酒を飲んだせいで、酔いを醒ますのに思った以上の時間がかかってしまった。
北脇のやり方は卑劣で、どうにも怒りが納まらない。
迂闊にもそれに乗った茜は……馬鹿にもほどがあるだろう。十八歳の女子高生が、太一郎のような男を捉まえるために、簡単に差し出すようなものじゃない。一連の騒動が芝居だと聞き、太一郎は心底安堵したのである。
だが一瞬、太一郎の胸にも欲情の火が点いた。
北脇のような男に奪われるくらいなら、と。
ほんのわずか、心によぎった男の欲望が、太一郎を自己嫌悪に陥れた。奈那子に申し訳なく、つい酒に手を出してしまったのである。
しかし、なぜ飲んだのか……それを彼女に説明することすら心苦しい。
結果、缶ビール一本に手を出したばかりに、太一郎は池袋から高田馬場まで歩き、そのあと数時間を駅のベンチで過ごす羽目になったのだった。
つくづく、自分は豪胆と言われた祖父とは似ていない。考えてみれば、母の尚子自身が性格は父親似ではなかった気がする。
太一郎の中から藤原の血を見つけようと、母は懸命に隔世遺伝だと主張していた。なまじ、見た目が祖父に似ていたせいかもしれない。母も妄想から抜け出せなくなったのだろう。
もし祖父に会えるなら、本当に太一郎を自分の後継者にするつもりだったのか聞いてみたい。
先代社長である祖父・藤原高徳は他人の人生を思うままに動かし、狂わせた張本人だ。それでいて自分が不幸だと思い、満たされぬまま死んだのだとしたら……。
(爺さんに似てなくてよかったぜ)
奈那子を“裏切りそうになった”のと“裏切った”のは違う。そんなことをブツブツ言いながら、太一郎は駅の改札を抜け、アパートに向かった。
外はもう真っ暗だ。こんなに遅くなる予定ではなかったのに、久しぶりに酒を飲んだせいで、酔いを醒ますのに思った以上の時間がかかってしまった。
北脇のやり方は卑劣で、どうにも怒りが納まらない。
迂闊にもそれに乗った茜は……馬鹿にもほどがあるだろう。十八歳の女子高生が、太一郎のような男を捉まえるために、簡単に差し出すようなものじゃない。一連の騒動が芝居だと聞き、太一郎は心底安堵したのである。
だが一瞬、太一郎の胸にも欲情の火が点いた。
北脇のような男に奪われるくらいなら、と。
ほんのわずか、心によぎった男の欲望が、太一郎を自己嫌悪に陥れた。奈那子に申し訳なく、つい酒に手を出してしまったのである。
しかし、なぜ飲んだのか……それを彼女に説明することすら心苦しい。
結果、缶ビール一本に手を出したばかりに、太一郎は池袋から高田馬場まで歩き、そのあと数時間を駅のベンチで過ごす羽目になったのだった。
つくづく、自分は豪胆と言われた祖父とは似ていない。考えてみれば、母の尚子自身が性格は父親似ではなかった気がする。
太一郎の中から藤原の血を見つけようと、母は懸命に隔世遺伝だと主張していた。なまじ、見た目が祖父に似ていたせいかもしれない。母も妄想から抜け出せなくなったのだろう。
もし祖父に会えるなら、本当に太一郎を自分の後継者にするつもりだったのか聞いてみたい。
先代社長である祖父・藤原高徳は他人の人生を思うままに動かし、狂わせた張本人だ。それでいて自分が不幸だと思い、満たされぬまま死んだのだとしたら……。
(爺さんに似てなくてよかったぜ)
奈那子を“裏切りそうになった”のと“裏切った”のは違う。そんなことをブツブツ言いながら、太一郎は駅の改札を抜け、アパートに向かった。