愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
「いやっ! やめて。やめさせて白石さん。た……彼を傷つけないで!」

「お嬢様ともあろう方が、こんな薄汚い男と。先生がどれほどお探しになったか、少しは考えてみてください」

「お父様は泉沢との縁を切るために、わたしを探しているだけでしょう? この方は関係ありません! お願いだからもうやめてっ」


地面に倒れながら、太一郎は奈那子が口にした白石の名を思い出していた。


(たしか……桐生の私設秘書が白石……)


公設秘書とは違い、主にこの白石が桐生代議士のプライベート問題を処理すると聞いたことがある。

太一郎が念書にサインしたときも、立ち会ったのは桐生ではなく白石だった。

会ったのはその一度だけだが、白石のいけ好かない顔を太一郎は覚えていた。


そして太一郎を殴った男が奈那子の身体に触れ、白石から引き離すとベンツに押し込もうとする。

太一郎は渾身の力で立ち上がり、声を限りに怒鳴ったが――。


「奈那子に触るんじゃ――グゥッ!」


衝撃は突然だった。

最初に太一郎が殴り倒した男が立ち上がり、脇腹にスタンガンを押し当てたのだ。悲鳴を上げそうになった奈那子の口を、もうひとりの男が塞ぐ。

白石は「おいおい、あまりそう言った物を使うんじゃない」と、顔を顰めた。


(俺は結局……奈那子ひとり助けられない……)


落ちかけた意識の中、「火事だーっ! 火事だ、燃えてるぞ、早く出て来てくれ! 火事だぞ!」


どこか聞き覚えのある声が、太一郎の脳裏を掠め……。


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