愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
今日の夕方、伊丹が仕事を終え会社に戻ったときのこと。
妙な雰囲気をした三人の男が会社から出てくる所に遭遇した。敷地に入ってすぐ、邪魔な場所にエンジンをかけたまま停車しているベンツの主だとすぐにわかる。
若い連中は単なる金持ちだと思ったようだ。
だが伊丹には、その男たちが堅気の商売ではないとピンと来たらしい。
さらに、滅多にいない社長夫人の郁美が、事務室の奥にある社長室から出て来た。何か後ろ暗いとこがあるのか、伊丹に愛想笑いを浮かべ……「お疲れさま~」などと言う。
「社長は部屋ですか?」
伊丹は社長に用事があるふりをして、社長室に足を向けた。
「まだ役所よ。もう戻って来るんじゃないかしら?」
「でも、お客さんがいらしてたんじゃ……」
「代わりにお話を聞いてたのよ。たいしたことじゃなかったわ」
そう言うと、そそくさとファイルを引き出しに押し込み、事務室から出て行った。
社長夫人の退室を見送ったあと、女性事務員は不満を口にしながら、折れ曲がったファイルを引っ張り出した。
チラッと見えたファイルは半年以内に辞めた従業員のもので……。
そこには『伊勢崎太一郎』の文字が見えたのだった。