ふたりのあさこ
本当、私は今のままで充分だよ。

何も求めない。この生活があっている。

『私は、もう少しそっちの世界を知りたいって思った。それに、亜沙子はもう少しおしゃれを楽しみたくないの?』

アサコの真っ赤な唇がかすかに震える。

「そりゃ楽しみたいよ? だけど、私とアサコが入れ替わる生活を送っても、私の気持ちは変わるわけじゃないの」

『この時に言うのもなんだけど……。ううん、この時だから言わせて。実はね、私以外にもいるのよ、そっちの世界に行っている人間がね。いずれわかる時期が来るから今は敢えて言わないけど。で、お互いに世界を行き来しているだけで、徐々にそっちの世界の人間は、本当になりたい自分の姿になれている例があるのよ! これってすごいって思わない?』

アサコはいつになく興奮している。
< 30 / 33 >

この作品をシェア

pagetop