深淵に棲む魚


 女は一瞬目を伏せた後、何故か哀しそうに微笑む。


『人魚に比べたら、私たちの不幸なんてきっとたいしたことないわ』


 長いような、短いような沈黙。



 二人は、まるで言い合わせたかのように、静かに展示室を後にする。






 あの日の私は、烏帽子の男の言葉をぼんやりと思い出していた。

(いつの世か、あなたと私が交わる日も来るやもしれません)


 ああ、そうだった。

 私はあの男の生まれ変わりを探していたんだった。

 どうして今まで忘れていたんだろうと。



 それからあの日の私は思う。



 足が無いと交われないとはどういう意味だろうか。






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