深淵に棲む魚


 鱗を毟って口にすれば、副作用があるにしろ、人間の足に似たものが生える。

 そうすれば、私は人間と同じように歩くことが出来る。

 足なんて、地を踏むための進化ではないか。



 なんにしても、人そっくりの足を手に入れた私なら、きっと交われるに違いないと。


 そして酷く不安になる。

 女の話では、交わる事は随分と重要な事のようだった。

 だとしたら、いつの日か烏帽子の男の生まれ変わりに出会った時、交われなければ困るではないか。

 あの、透き通るような白肌と、鋭い瞳を持った、浮世離れした男の……。



 そして、はたと思う。



 そうか。



 女と一緒にいた男こそ、烏帽子の男の生まれ変わりなのだ。







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