深淵に棲む魚
いつの間にか、私は涙を流していた。
羨ましいと思った。
妬ましかった。
苦しかった。
私が渇望していた全てが、そこにあるような気がした。
私は泣きながら二人の姿を見続けた。
交わる二人の右側に、水の入ったコップと白い粉のようなものが置いてあった。
反対側には、沢山の吸い殻が入った陶器の灰皿があり、そこから煙が細く昇っていた。
おぞましくて不気味で、美しい光景だった。
瞬きも忘れ凝視した。
ぞわぞわしたものがお腹から全身に波打って、酷く苦しくて何度も唾を飲んだ。
心の中がぐちゃぐちゃに掻き乱される気がした。
濠と訳の分からない感情が渦巻いた。
女が口を開き喘ぐ度、身体の疼きは強まった。
傍らの男が烏帽子の男と重なって見えた。
身悶える女が自分と重なった。
呼吸が乱れる。
身体が疼く。
鳥肌が立つ。
全身が震える。
私は涙を流しながら、食い入るようにその情事を見続けた。そうせずにはいられなかった。