深淵に棲む魚
炎は301号室と二人を焼き切った直後消火された。
他の設備はほぼ無傷だった。
廃業したのは、噂が蔓延ったせいだった。
死ぬ直前、ポニーテール姿の日本女と瞳の青い白人男が「人魚展」を眺めていたと、誰かが言った。
火事の最中、人魚を見たと誰かの子供が騒いだ。
『人魚の呪いだ』
ざわりと怯えた空気が広がった。
やがて、若い男女が人魚に呪われ殺されたと噂が広がり、それは様々な肉付けで膨らみながら巨大化し、ホテルを経営困難にまで追い込んだのだった。