深淵に棲む魚
五階
まず目につくのは『鶴の間』という宴会場だった。
宿泊者の朝晩の食事はもちろん、温泉やゲームセンターのみの利用者が食べられる軽食なども置いてあり、賑わった場所だった。
もちろん今はしんとしているけれど。
隣は広い厨房になっている。
電気とガスこそ止まっているものの、食器や調理器具の類は棚にきちんと収まり、蛇口を捻ると赤錆びた水が出て、しばらくすると透明に変わった。
今でも流水するのは、水道水の代わりに地下水を汲み上げているからだろうか。
良く分からなかったし、どうでも良いことだった。
銀色の調理場に薄っすら積もる埃を指先でつうとなぞりながら、私は先へと進んだ。