深淵に棲む魚
廊下を進むとガラス張りの一角が見えてくる。
内側にエアバイクが幾つも並んでいる。
ここからでもサドルに埃が積もっているのが分かった。
それ程、年月が経ったのだと改めて思った。
ふと、目の前を黒いギターケースを斜め掛けした男の背中が通り過ぎ、消えた。
その残像を追いかける。
あの日咄嗟にそうしたように。
入り口を抜けてがらんどうのプールへ入る。
あの日ここで、背中を浮き沈みさせながら鮮やかに水を掻く男を見つめていた。
男の残像が、端でクルリとターンして、こちらに向かって泳いでくる。
しなやかでスムーズな泳ぎ。
まるで尾が生えているみたい。
水中が男の居場所のようだった。