深淵に棲む魚


 罵声を浴びせ、げらげら笑う若者たち。

 目を泳がせ下を向いた男は、ただ三味線を両手で抱きしめ震えていた。



 そのうち、世話好きのおばさんに引っ張られ、遠くから駅員が歩いてくる。

 若者の一人がそれを見つけ「つまんねぇ、帰ろうぜ」と皆に目くばせした。




 若者たちが遠く去ってしまうと、男はホッと息を吐き、また三味線を鳴らし始めた。





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