深淵に棲む魚
何をしていても、どこにいても離れない。
烏帽子の男が、私の中に棲みついているようだった。
男を想うだけで身体中が焼けそうに火照る。
男の姿を見つけると、高く飛び跳ねたい気持ちになった。
嬉しすぎて岩に尾ひれを打ち付けた。
どうしようもなく苦しくなった。
男に触れたくて仕方なかった。
三味線を奏でる、あのしなやかな指に触れてみたい。
それはずっと昔から願っていた事のような気がした。
男に私を見て欲しいと望んだ。
胸の奥を掻き毟りたくなった。
酷く混乱して、どうしたらよいのか分からなくなって、衝動的に、目に入った自分の鱗を毟り取って口に入れた。
目の奥がちかっとして、軽い眩暈と共に意識が遠のいた。
鱗の副作用だった。