深淵に棲む魚
男は首を傾げた。
「あなたも三味線を弾くのですか?」
違うと首を横に振る。
(弾いて欲しいの)
男は笑って「持ってみますか」と私に手渡した。
言葉の喋れない自分に苛立った。
男と意思疎通出来なかったことが哀しかった。
私は仕方なく三味線を眺めた。
ずしりと重い。
不思議な良い香りがした。
これがあの音の正体か。
どのようにしたら、あんなに美しい音が出るのだろう。
覗き込もうとした時だった。