深淵に棲む魚
パキパキした琴音。
弦を滑る時のヒュン、ギュインと擦れる音。半音上がったり下がったりを繰り返す不安定な感じ。
決して上手くはない男の三味線に私が惹きつけられたのは、男の弾く曲目のせいだった。
いつかどこかで耳にした、この国の物ではないメロディー。
和楽器が、海を越えた異国の音楽を奏でている。
それは何とも不調和で、歪だった。
それでいて私の心は微弱に震え、耳は勝手にその音色を捉えて放さないのだ。
結局私は男の前にしゃがみ込み、胸元から足先まで伸びる邪魔なロングスカートを股の間に挟み込んだ。
薄い布地が、バストとウエストのラインをくっきりなぞる。
男は弦の張りを直す素振りをしながら、花壇の上で私の胸元をちらりと見下ろした。
それから、何事も無かったかのように三味線を弾き始める。
夏なのに真っ白な男の指は、意外にも細くしなやかだった。