深淵に棲む魚


 烏帽子の男は袖の内側から、黒い丸薬を取り出し、私の手に握らせた。

 男の手は、きんと冷たかった。



 私の欲していた温もりはそこに存在しなかった。



 すっと手を放し、男は射抜くように私を見つめた。

 弾かれるように私は舟の端へ向かった。

 残酷な時間だった。




 恥ずかしくて恥ずかしくて、必死で船の桟へと進んだ。

 男が三味線を弾きながら座っていたそこは、川と舟との境界だった。

 足を失った私にとって、果てしなく遠い道のりだった。

 耐え難い時間だった。






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