深淵に棲む魚
気が付けば人の世界のことばかり考えていた。
人の声が、言葉が恋しくて仕方なかった。
朱く灯った屋形船が恋しかった。
一番恋しかったのは、烏帽子の男の姿だった。
あの男とのひとときが、頭から離れなかった。
涼やかな声が頭で響いていた。
三味線の音が鳴っていた。
そのうち、私は烏帽子の男が話していた文明の発展について思いを巡らすようになった。
仄暗い水底で、男の言葉の一語一語をを幾度となく頭で再現した。
どんなに考えても、分かる所は分かるし、分からない所は分からなかった。
男に会いたかった。