深淵に棲む魚


 次の世が来たと言う事は、私が会いたかった男は死んでしまったに違いない。

 二度目の涙が流れた。

 涙と言うものは妙に温かく、口に入るとじゅわりと涎が湧いた。

 水中で流した時には気付かないことだった。

 止めればよかったと泣いた。




 やっぱり二度と浮上するべきではなかったのだ。

 変な気を起こしたらいけなかったのだ。

 知らなければ良かったと泣いた。




 次の世の訪れを知らなければ、知らないまま永遠に水底で暮らしていれば、私の中であの男も永遠に存在したのに。

 あの男を想いながら、今頃どうしているだろうと想い馳せながら永遠に過ごせたのに。





< 90 / 161 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop