深淵に棲む魚


 もうあの男はいない。

 声も聞けない。

 どうしたらいい?

 こんなにも会いたいのに。

 会いたくて会いたくて仕方がないのに。

 涙はとめどなく流れ続けた。



 人に近づくため、身を寄せていた古い木の橋は、頑丈で硬い、岩のような素材に造り替えられていた。

 それも哀しかった。

 全てが哀しくて虚しくて、いつしか、黒い丸薬のことを思い出していた。





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