深淵に棲む魚


 頑丈になった橋を往来する人の中に、烏帽子の男を見た気がしたのは、そのせいだったのかもしれない。



 仄かな光と共に男の声が頭に降り注ぐ。


(私は私として、前の世でも、次の世でも、生まれては死んでいる)





 ああ、そうか。





 今の世には、あの男の生まれ変わりが暮らしているのだ。

 きっとそう。



 涙に濡れた顔を水で洗い流す。

 男が奏でる、清らかで澄んだ三味線の音が耳の奥で流れた。







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