あの時とこれからの日常
「しるふ」

海斗の背を見つめていたはずが、気が付いたら床に視線が移っていたらしい

海斗に呼ばれて、視線を上げると相変わらずの漆黒の瞳が、そっとしるふをとらえる

「何」

ねえ、海斗は不安?なんて聞けたら、そこまで素直になれたら

そのあとの答えを恐れることがなければ、なんて楽だろう

ああ、でもこの不安が現実になったことなんて一度だってなかった

「いつまで突っ立るのかと思って」

ついでに出来た

いつも通りそっけない海斗の言葉

ガスコンロの上には、湯気の立つ鍋が一つ

「今日は何を作ったの」

「ロールキャベツ」

好きだろ

棚から食器を取り出す海斗の横で、冷蔵庫を開ける

「うん。特に海斗のは形もいいし、ボリュームもあるからね」

ボリュームがあるのは、しるふが喜ぶからだ

マグカップ、スプーンなどなどテーブルの上に着々と準備をしていると

湯気の立つロールキャベツののった二つの皿を持ってきた海斗が、

ぐしゃぐしゃとしるふの頭をなでる

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