あの時とこれからの日常
むっとしながら振り返ると屋上への扉を後ろ手に閉めた海斗が、しるふの座るベンチに近寄ってくるところだった

しるふにここに来るときに自販で買ってきたココアを手渡しながら隣に座る

自分には普通に緑茶だ

「随分ご立腹だな」

沈黙を破ったのは海斗

しるふは不機嫌そうな顔でココアをすすっている

「別に」

しるふの低い声に思わず笑いそうになるのをこらえる

ここで笑ったら火に油を注いでしまう

「医局長が困ってたぞ。うちの姫君が手の付けられないほど怒ってるって」

「だからここに来たんじゃない」

わかってるわよ、と一度も海斗を視ずに答える

「海斗はさ、」

手の中にあるココアを見つめながらしるふがしゃべりだしたのは、少しの沈黙ののち

「嫌じゃないの?あんなこと言われて。しかもあんなひげ面のくそじじいに」

ひげ面のくそじじいとは、なかなかのご発言だ

「慣れた、んだろうな」

やっかみなど今に始まったことではない

それこそ大学時代からあったと言えばあった

あの時は同級生から、そして医者になってからは周りのお偉いさんや医師たちから
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