あの時とこれからの日常
無意識のうちにきゅっと手を握りしめる

だって、だって…

「しるふが、医者としてじゃなくて恋人として同じ立場に立ちたいって思ってくれてることは知ってた」

事あるごとに見つめてくる瞳は、無言にもとても強い想いがあったから

海斗が、外していた視線をしるふに向ける

「でも、たとえどんなに泣き叫ばれようとも離婚届突きつけられようとも、それだけは譲れない」

何にも染まらない漆黒の瞳

静かなのに強い光があるから

もう、何も言えない

「もう何年も前に決めたことなんだ。しるふを、立花を何色にも染めないって」

真っ白のまま

このまま咲き続けさせる

「だから、悪い。しるふのその願いだけはどうしても聞いてやれない」

握った拳にさらに力を込めて、しるふはたまらずにうつむく

「……ずるいよ、海斗は。そんな風に言われたらわかったって言うしかないじゃない」

こんなにも想われていると、想ってくれているとわかってしまうから

どうして反論できようか
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