あの時とこれからの日常
俯いているとふわりと愛しい香りが抱きしめてくれる

あやすように海斗の手がしるふの背を叩く

ぎゅっと握った白衣と、海斗から視えないようにかみしめた唇

けれど、そのすべてを了解しているように

「泣かせるつもりはなかったんだけどな」

と、頭上で困ったような声が響く

その言葉に、「泣いてなんかない」と

その一言すら言えなかった

だって、だって…

胸を埋め尽くすこの想いを

言の葉にのせることの方が無理で

やり過ごすしかなくて

かみしめた唇と、力強く握った白衣に

すべてを込めるしなかった


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