あの時とこれからの日常
「海斗みたくはなれないよ」

つぶやかれた言葉には、泣いてすっきりしたせいかいつも通りの響きがある

「そりゃ、違う人間だからな」

「…そこ、慰めにも励ましたり、大丈夫だって、くらい言えない?」

すねた様に見上げてくるしるふの瞳は少し赤い

「気休めは言わない主義なんで」

「…そーよね。海斗はよくも悪くも正直よ」

隣に神宮寺や海斗のように救命界で有名な医者がいるということは、それだけ理想が高くなるということだ

自分との差を感じるのも日常だろう

高い技術が学べるという利点もありながら、潰れるかもしれないという危険とも隣りあわせだ

「どんなに頑張ったって過ごした時間だけは変わらない。しるふが今俺がいることろにたどり着いた時には、俺はもっと先に進んでる」

しるふが医者として3年目を迎えた時、海斗は6年目だ

その差は決して縮まることはない

「嫌味ー」

「事実だろう」

「そうだけど…」

わかっている

あの背は、いつだってしるふの先にある

視えなくなることはないけれど、決して近づくこともない

隣に居るからこそ、医者として同じくらいの経験を積んで海斗に追いつくことができないのはわかっている
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