gardenquartz 小さな楽園
ディーンの話を聞き終えて、俺もディーンと同じく煙草に火を着けて、一服した。
キャットはその場で足元をずっと見ていた。

そして、ポツリポツリと独り言のように話し始めた。

『私。ジョナサンの気持ち分かる気がする…。』

俺とディーンはキャットを見た。
まだ、下を向いたままモジモジしていたままだが、続きを話し始めた。

『ジョナサンは孤独なのよ。そして、誰よりも、愛を欲しがってる。
でも、愛が何かを教えてくれる人が居なかったから、愛し方が分からないのよ。
でも、心の中では愛されたい気持ちが強すぎて、それが愛だと気付かずに、歪んでしまったんだと思う。』



ディーンが静かにキャットに言った。

『そうか…。俺を殺そうとしたのは何故なんだと思う?』


キャットはディーンに顔を向けた。その目には涙が溢れていた。

『愛する人を自分のモノにするため。ずっと側に居て欲しいと思ったからだと思う。』


ディーンはキャットを見つめた。

キャットはディーンにすがる様な目で続けた。
『私がそうだったから…。わ…私、碧子に憧れてた。幼い頃から何時も、碧子と比べられ、出来損ないと回りに言われて…。
会ったこと無い碧子に嫉妬して…。でも、何処かで、憧れて…。
内緒で、碧子が映ってる映像を見つけた。
とても、綺麗で、わ…私……碧子になりたいと思った。』

キャットは下を向いて泣きじゃくってしまった。



修利のキャットに対する警戒はこの事だったんだな。
和樹は確信した。
キャットは碧子に歪んだ気持ちを抱いていた。
でも、それはキャット自身愛を知らなかったから愛情が歪んだ形になってしまったんだ。


ディーンはキャットに静かに近づき抱き締めた。
キャットはピクリと体を動かしたが、ディーンに抱きつき涙を流した。
ディーンはまるで傷ついた小鳥を抱き締める様に優しく、泣いているキャットを抱き締めた。
そして、耳元でキャットに優しく言い聞かせた。

『キャット。お前は誰でもない。キャットで良いんだ。大丈夫だ。誰かになる必要なんて無い。
そして、お前は誰かを愛せる。そして、愛されている事を忘れるな。
嫉妬や憎しみは誰にでもある。心配するな。不安になるな。
お前はそのままで良いんだ。
出来損ないなんかじゃない。
キャット…。お前はもっと自分を好きになれ。
そして、人の温かさを知っているだろう?』


キャットはディーンをキツク抱き締め頷いた。

『私、仲間が居たから、まだ人で居られた。でも、きっと、ジョナサンには居なかった。
だから、そのままだと思う。もしかしたら、もっと酷いことになっている。
でも、仲間を殺されたジョナサンを私は許すことが出来ないの。
だから、ディーン…。私も一緒にジョナサンの所に行く。』


ディーンは答えず、只黙ってキャットを抱き締めていた。



和樹はキャットが言った言葉を頭の中で考えていた。
憎しみや嫉妬と憧れ…。感情を知らない人間がそれが、何なのか分からないとき、人はどうなるんだろう…。


俺は当たり前の様に碧さんを好きになった。
家族に囲まれ、育ってきた。
それが当たり前だった。
でも、そうじゃない。当たり前なんかじゃなかったんだ。
それは俺が恵まれていた。
実はとても幸せな事だった。


俺は胸が締め付けられる感じを抱いて、2人を見ていた。







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