gardenquartz 小さな楽園
『ただいま。』
俺は玄関を開け言った。

『あら~。おかえり~。』
母親の何時もの声が返ってきた。

俺はフッと笑い。荷物を持って自分の部屋に入った。
母親が部屋の空気の入れ替えをしてくれていたのか、窓が開いていて心地好い風がカーテンを揺らしていた。


荷物をそのままにして、俺はベッドに寝転んだ。
見慣れた天井。
自分の部屋の香り。


俺は深い眠りについた。





次に目覚めたときは、夜になっていた。
俺はベッドから起き上がり、下に降りていった。
母親が台所で俺に声をかけた。

『夕飯までまだ時間があるから、お風呂入っちゃって。』


『うん。』
俺はなるべく普通に返事をした。

何時もよりゆっくり風呂に入って、自分の手を見た。
手は豆だらけで、ゴツゴツしていた。
髪を洗って自分の姿を鏡で見た。

何かが違う。
ディーンの首飾りがキラキラ光っている。


風呂から上がってダイニングに行くと父親が帰ってきていた。
俺は、なるべく普通に接しようと父親に声をかけた。
『おかえり。』

父親は俺の顔をスッと見て返事をした。
『あぁ。ただいま。バイトはどうだった?』

俺は冷蔵庫から冷えたスポーツドリンクを取り出しながら、父親の顔を見ずに返事をした。
『大変だったけど、行って良かったよ。』

父親は俺の顔から視線を外して言った。
『そうか…。お前、良い顔つきになったな。』



俺はドキッとして父親を見た。
父親はお茶を飲みながらシレッとしていた。

自分の父親の鋭いのは何処から来るものなんだろう?
俺は黙って自分の部屋に行った。


暫くぶりの自分のベッドで俺はやっと帰ってきた実感を噛み締めながら深い、深い眠りについた。












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