gardenquartz 小さな楽園
俺は施術室の真ん中に設置された椅子に腰かけてピアスを男に渡した。

男はゴム手袋をはめて、俺の耳たぶを消毒して、耳朶に印をつけて、鏡で俺に位置の確認をして、滅菌パックからニードルを取り出し、目印の所にニードルを刺した。
感触はあったが、痛みは無かった。
そして、素早くピアスをはめて鏡でピアスのついた耳を見せてくれた。


ピアスが耳に輝いていた。


『ありがとう。』
俺はお礼を言った。

男は笑って答えた。
『絵梨佳のダチだし、俺は君達の事知ってるからな。』

俺は椅子から降りて聞いた。
『へぇ~。どんな事聞いてますか?』


男はカーテンを開けながら答えた。
『君らはこの街を好きで、この街を守ってるってな。』

俺は口の端だけ上げて笑った。
店のソファに向かい合わせで男とデザインの相談をして、凡その形が出来たので、仕上げを頼んで、店を出た。


街は夕暮れでビルが紅く染まっていたが、人の数は増えていた。


俺はバイクを押しながら碧さんの店に向かった。


店は当然閉まっていた。
店の前にバイクを停めて、煙草に火を着けて街並みを眺めた。


街は相変わらず乱痴気騒ぎで、ごった返していた。


【平和だな。】

俺は心からそう思った。
これで良いのかもしれない。
この街は何時までも乱痴気騒ぎで、それなりに大変だけど、絵梨佳みたいに各々悩みを抱えてるけど、この街に来れば一時でも忘れられるなら、それもありだろう…。


俺は吸い終わった煙草を地面に落としてブーツで火を消した。




『こら!!人の店の前でポイ捨てするな!!』

俺の好きな声が聞こえた。
声の方へ向くと、碧さんが立って笑っていた。



俺はゆっくり、佇んでいる碧さんに近付いてそして、腕に抱き締めた。


『おかえり。』
俺は碧さんの髪に顔を埋め言った。

碧さんは優しく答えた。
『ただいま。』



街の空に一番星が輝いた。









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