gardenquartz 小さな楽園
キャットは碧子の家に暫く居ることになった。
そして、今日は俺の右肩に碧子と同じ蠍を入れる日だ。

その前日から俺は碧子の家に泊まっていたが、その間中キャットは俺をからかっていた。

『すごーく痛いんだよ~。止めるなら今だよ~。』

『お前だって入れてるじゃん。』
俺は言い返した。


キャットは口を尖らせ答えた。
『私達のは目印だもん。痛いのなんて言ってらんなかったんだもん。』


ここに来てからキャットはよく笑う様になった。
碧子の店も手伝うのがとても楽しそうで、はしゃいでいた。
外の世界を知らなかったキャットにとっては見るもの全てに興味津々で新鮮だったのだろう。



碧子は昨夜空港に彫り師を迎えに行って、夜明近くに帰ってきたので、まだベッドの中で寝ていた。


修利も昨日は碧子の家に泊まったので、俺、修利、キャットで色んな話をした。
大抵は俺達がキャットが病院を抜け出してから日本へ来るまで何処に居たのか、聞き出していた。


キャットの話だと、退屈で飽きたから抜け出したらしい。
そして、昨夜碧子が迎えに行った彫り師の所に行って、ジェシーとベラの石を入れて貰ってから、暫く自由を満喫していたらしかった。

キャットは染々言った。
『私、自由がこんなに素晴らしかったなんて知らなかった。
何処に行くにも、何をしても、自由なのよ!私の意思で出来るの。凄いと思ったわ。』

そして、左脇腹を撫でて言った。
『ジェシーやベラにも見せたかった。』

俺と修利は黙っていた。
当たり前に過ごしていた俺達にキャットの喜びは計り知れない事なんだ。


碧子が起きてきた。
『おはよう。』

キャットは碧子の所に走って行って、得意気に言った。
『今朝はね、私が朝食作ったの。』


碧子はニッコリ笑って答えた。
『シャワーを浴びたら頂くわ。』


『うん!』
まるで子供の様にはしゃいでいた。


俺と修利は笑っていた。

『んじゃあ俺は絵梨佳と約束あっから行くわ。』


『分かった。絵梨佳に宜しく言っといてくれ。』
俺は修利に言った。


すると、キャットが修利に聞いてきた。
『絵梨佳って修利のスタディなの?』

修利は笑って答えた。

『あぁ。今度キャットにも会わせるよ。きっと良い友達になると思うよ。』


キャットは目を輝かして言った。
『友達か~。早く会わせてね。』


『じゃあな。』
修利は絵梨佳の所に向かった。

シャワーから出てきた碧子に俺は声をかけた。
『何処で彫るの?』

碧子はキャットが用意した朝食を前に答えた。
『ここに使ってない部屋があるからそこでどう?』


俺は『分かった。』と返事をした。


碧子は少し心配そうに言った。
『和樹。本当に良いの?』

俺は碧子を見つめてハッキリ言った。
『良いんだ。そうしたいんだ。』


碧子は頷いて、朝食を食べ始めた。
キャットは碧子の向かいに座り、碧子と喋り始めた。


俺はテラスに出て、長椅子に座って日の光を浴びてゆっくり過ごした。







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