gardenquartz 小さな楽園
街は夏休みに入ったので人が溢れて苛つく位ごった返していた。

知った顔にも出会い、軽く会話を交わしたり、挨拶したりしていたが、明らかに垢抜けない格好の若い奴等が人波に乗り切れず弾かれていた。


補導員が数人で女の子を取り囲み話している。
家出少女がこの街で消える何て事は別に珍しくない。
街に夢を求めて来る事が悪いんじゃない。
この街は鉄則がある。

【自分の身は自分で守れ!誰も助けちゃくれない。】


無知は落とし穴に自分から飛び込むような馬鹿な事なんだと俺はこの街で学んだ。

上手く立ち回らなければ馬鹿を見るのは自分自身だからな。

俺等はスクランブル交差点をすり抜け普段は来ない静かな珈琲ショップに入った。

軽く食事を済ませアイスコーヒーをゆっくり飲んでいた。
席は観葉植物が上手く目隠しになっていてテーブル席でも落ち着ける。

客は俺等を合わせても数組しかいない。

俺と修利は言葉を交わすこと無く食事を済ませ、煙草に火を着けて深く煙を吸い込みながら煙草を味わった。


腕時計を見るとまだ二時間ほど時間がある。
不意に修利が俺に話始めた。

『俺のオヤジさ…。オフクロの話だと本国に家族が居たらしい。
でも、オフクロと出会って、軍を脱走してまでおふくろの事を愛してたんだって。

そんで二人でこの日本を逃げ回ってたんだって。その間に俺が産まれて、
そん時、オヤジは泣いて喜んだんだと。
でも、最後は見つかって連れていかれて軍法裁判で強制送還されたんだよ。
オフクロ酔っ払うと同じ話を繰返し話すんだよ。
俺さホントは、はじめオヤジを憎んだ。俺とオフクロを捨てた悪いやつだとオフクロに楯突いたら、オフクロに思いっきり平手打ち食らった。
オフクロが俺を殴ったのはその一回だけだった…。オフクロ今でもオヤジを待ってるんだよ。
何時か帰ってくると信じてさ。馬鹿だよな。』


俺はサラリと答えた。
『馬鹿じゃねぇよ。お前のオフクロさんスゲー格好いい良い女じゃん。お前のオフクロじゃなかったら良かったのに。』

修利はニヤリと笑い言い返した。
『良い女はブレナイんだよ。馬鹿だな。』


二人でフッと笑った。


そして修利は俺に聞いてきた。
『お前は誰かマジで惚れたオンナ居ないのかよ?』

俺は窓の外を眺めながら答えた。

『居るよ。スゲー最高のオンナ。俺さ色んなオンナ見てきたけど、マジに惚れたのは一人だな。でも、高嶺の花でな。諦めはしないけどな…。』

修利も窓の外を眺めて言った。
『碧さんか…?』


俺は口だけ動かして答えた。
『アァ。最高のオンナだろう?』


『そうだな。良い女だ。絵梨佳には負けるけどな。』


『そうか…。』俺はふと笑った。


待ち合わせ時刻まで後、一時間。

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