gardenquartz 小さな楽園
11時ジャスト。

カチリ

扉のロックが外れた。
現れたのは端正な顔立ちにすらりとした身のこなしをした若い男が入ってきた。
黒のスーツに恐ろしい程栄える銀髪に冷たい氷の様な薄いブルーの瞳。
身長は190cm以上あるが、それを感じさせない。

『御迎えに参りました。どうぞ御案内致します。』


流暢な日本語。
でも、何処か冷たく、機械的で寒気がする。


修利も何かを嗅ぎ取ったらしい。
ふざけていた行動をピタリと止めて、ソイツを見ていた。


その男は俺達の空気を読んだらしく口を開いた。
『私は貴殿方を指定の場所に御案内するだけですので、ご安心下さい。』


俺は眉間にシワを寄せた。
コイツただ者じゃない。
プロだ。


その男の背後から声がした。
『安心して。その人の言う通りにして。危険は無いわ。』
碧さんの声だ。


俺はソイツから視線を外さず、自分の荷物を持った。
修利も同じくソイツから視線を外さなかった。


俺達が荷物を持ったのを見た男はクルリと向きを変えて扉の外に出た。

俺達も男に続いて廊下に出た。
碧さんが黒のバックパックを肩に掛け俺達が出てくるのを待ってた。

『大丈夫。危険は無いわ。ゲーム会場までは何も危険な事は無いから。』


俺達は黙っていた。


男はベルベットのカーテンを開けてこちらを振り向き佇んでいる。
動きに全く無駄がなく、感情が読めないくらい冷淡な顔をして俺達を待っている。


碧さんは俺達の前を歩いて俺達と男の間に入った。

男が開けたカーテンを碧さん、修利、俺の順番で店内に出た。

俺は男の横を通るとき男の目を見た。
男は無表情だった。

コイツみたいなヤツを相手にするのか?

俺は男が自分の背後に居るのがとても不愉快でならなかった。


碧さんが外へと通じる扉を開けた。
外は土砂降りの雨。
夏休みの始めの週末で人がわんさか居る筈の渋谷もこの土砂降りのお陰で人通りが無い。


碧さんが俺達に傘を差し出した。
俺達は傘を受け取った。

『こちらに車を停めてありますので御案内致します。』

突然男が俺の横から傘を差しながら言った。
俺はビクリとした。
気配が全く無かった。
こんな事は初めてだった。
自慢じゃないが、俺達はそれなりに腕には自信がある。
背後を取られる事なんて無かった。


男は無表情で傘を差し俺達が外に出るのを待っていた。
俺は碧さんを見た。
碧さんはコクリと頷いた。

俺達は傘を差し表に出た。
碧さんが店の扉を閉めて鍵をかけた。

この土砂降りの雨が俺達の事を隠している様に思えた。

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