gardenquartz 小さな楽園
頑張れよと言い俺達はウンザリするほど坂道がある渋谷の裏道を通り、とある建物の前に着いた。

この店は隠れる様に建っている昔の洋館風の造りになっていて知る人ぞ知る店だ。

俺が初めてこの店を見つけたのは中学2年の夏の夕立に遭った時からで今では常連の店だ。

兎に角目立たない上に看板も無い。
店が営業しているかは扉に大きな馬の蹄に使う蹄鉄が掛かっているのが目印だ。

今日は蹄鉄が掛かっているので営業中だ。

俺は銅製の取っ手を掴んで扉を開いた。
シャラシャラと貝殻の擦れる音が店内に響く。

カウンターは大きな木の幹が削り取られた一枚板で造られていて、テーブル席のテーブルも一枚板のがっしりしたテーブルなので、同じ形のものは無い。

カウンター席の椅子は足の長い椅子で革張りの背もたれに丸い鉄の鋲が打ち付けてあり、ゴツいが座り心地が良い。

テーブル席の椅子も革張りのゆったりとした造りで、年期が経っているので、革の硬さが取れて良い感じに座る人に馴染む。

『いらっしゃい。』良く通る声が聞こえた。

俺は声のした方に視線を向けながらカウンター席に座る。
店の奥に個室があり、そこから声は聞こえた。
個室は入った事が無いので、どういう造りかは知らない。
どんな奴が使うかも知らない。
常連の俺でも未だに入れて貰えない。

声の主は直ぐに現れた。
俺はドキドキしている。
そう、俺は声の主の事が好きなのだ。

所謂一目惚れだ。


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