背龍綺譚(せりゅうきたん)改
「マダムが心配してるだろうな」
腕時計を見ながら苦笑いをする。

「そうだよね…大ママは家?すぐ会える?」
砦は仁龔を見上げ…
仁龔は砦に歩幅を合わせて歩く。

昔と違うのは、服の裾を引っ張らなくても歩けるって所だ。

「会えるよ。砦を心配して待ってる」
銀色の車の助手席を開けながら仁龔が言う。

特に会話も無く車は走る…
(仁龔が…うちの子になった時、私は何才だったんだろう…)
単純に計算してみても、25才を超えているだろう男性に、
(大人になったね)と言った自分を笑い
、仁龔が(うちの子)になった時の事を思い出していた。

砦の到着を待つ、祖母の充(みつる)の家
の中庭で、砦は仁龔を知った。
「砦…今日から、うちの子になった仁龔だよ」

いきなり兄が出来、砦は大喜びした。
ちゃんと名前が呼べない砦を許し、それ以来(じん)と呼ばれている。

涼しげな、枝垂れた長い睫毛をした少年は、砦の母である鶫(つぐみ)が、西の街に行く事になり引っ越す事になるまで、いつも砦の側にいた。
父であり、兄を兼ねていた。

(それなのに忘れてたんだ…)
運転する仁龔の横顔を見る。

(運転も出来るんだ…大人になったなぁ…って…アタシが育てた訳じゃないけど
…)
思い出した砦を乗せた車は、充の家とは違う場所を目指している。

「ねぇ…ここ、どこ?」
砦は、待ち合わせの街とは違う意味で賑やかな所に連れられていた。
薄暗くなった空が、賑やかさを引き立てている。
< 3 / 20 >

この作品をシェア

pagetop