背龍綺譚(せりゅうきたん)改
「砦!起きな!!」

翌朝、夜中に店から帰って来た充と仁龔には気が付いた砦だったが、充は朝から元気だ。

「ほら…お前、好きだろう?」
生米から炊き上げた朝粥に、揚げたワンタンの皮と刻んだザーサイを乗せながら充が、朝食を勧める。

「朝粥?久しぶりだよ…いただきます」
砦は、充の作る朝粥を懐かしみながら口に運ぶ。

今朝はまだ、仁龔の姿を見ていない。
「大ママ…仁龔は?まだ寝てるの?」

「いいや…龍が動いてね…場所の下見に行ってるのさ…」
間を開けて充は言う。

「アンタの初仕事になりそうだね…」

砦は箸を止めて充を見る。
「何すれば良いの?」

「分からない…虎目石を持って行きな…詳しい事は分からないが…蜻蛉は英語で何て言うか知ってるだろ?」
口にスプーンを入れたままで砦は頷く。

「害虫を食べてくれたり、秋を知らせたり古い書物にも出て来る。砦を手助けする為に現われたんだろう…」
長い間、不思議な事を体験して来た充でも…
(いきなり背中に遣いが!)って事に遭遇した事はないのだろう。

「ドラゴンフライ…じゃあ、龍の化身?」

「近い物だとは思うが…龍なら虎目石の力が使えないだろ…」
充の言葉の端々にいつもの自信や、確信みたいな物が感じられない。

「じゃあ、仁龔の龍みたいに何かを教えてくれるとか…って力は…」

「解らないね…」

しばらくすると、仁龔が帰って来た。
「起きてたのか?」

「あ…おはよう…」

「聞いたか?」
自分の背中を指差しながら仁龔はシャツをはだける。
そこに…砦を睨み付けた龍の姿が無い。

「うん…聞いた…飛んで行ったの?」

「そうだな…支度しろよ」
訳も分からないまま、覚悟を決める時間も無いままで、砦は初仕事をする事になった。
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