間接キス
間接キス
 梅雨は嫌いだと晴香は言う。

 自分の名前に「晴れ」が入っているから、晴れの方が好きだし、曇ってばかりですっきりしないし、髪の毛ははねるし、カビっぽいにおいがするし、音が何となくこもった感じになる気がして嫌なのだそうだ。

 「奏太はどうなの?」

 僕はと言うと、梅雨はどちらかというと好きだ。傘をさすことができる。傘をさして歩くのが好きだ。傘の波を見るのが好きだ。濡れた葉の緑の色が好きだ。

 「変わってるね。」
 「見方を変えれば、魅力的にも見えるってこと。」

 晴香がふふふと笑った。毎日発見があって、奏太といると楽しいと言われた。なんてことない会話ですら、楽しいという。そんな彼女の笑顔が好きだ。

 告白して付き合うことになって1か月ほど過ぎた。付き合うってどういうことなのか、晴香はサックスコンビに聞いたらしい。「何も変わらないんじゃんと言われた」という言葉通り、関係は大して変わらない。ただ、今までつないでいなかった手をつないでいたり、抱きしめたり、こっそりキスしたり、そんな毎日だ。

 近づいた距離を嬉しく思うのだが、晴香はそれにまだ慣れていない。僕だって付き合うということが初めてだから、慣れてはいないのだけれども、僕以上に慣れていない。だから時々、ビックリするようなことをしてくる。

 僕が意識しすぎなのか、晴香が鈍感なのか、晴香がものを知らないのか、どれかはわからないけれども。

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