間接キス
 「相変わらず、雨だねぇ。」

 晴香は紫色の傘をくるくる回しながら、ダラダラ続く駅までの道を憂鬱そうに歩いていた。雨の日が嫌いではないけれども、帰り道が雨なのは少し憂鬱だ。

 「なぁ、晴香。」
 「ん?」
 「今日はもうちょっと話したい。」
 「……いいよ。」

 晴香はビックリした顔で僕を見た。僕から「もうちょっと話したい」と言ったのが初めてだから。

駅に着いて、「また明日」というのがいつものパターンだ。ただ、2週間ぐらい前から時々、晴香が駅の途中の公園に着く前に、「もうちょっと話したい」と言うようになった。僕の本心としては、毎日でも「もうちょっと話したい」けれども。

 雨が降っているのもあってか、公園には人がいなかった。公園にはあずまやがあり、雨をしのぐことができた。傘を畳んでベンチに二人で腰かけた。ふと見えた晴香の白い手に吸い寄せられるように、僕の手を重ねた。

 「やっと手、つなげるや。」

 晴香が照れてうつむいていた。

 「未だに緊張する?」
 「うん、少し。でもちょっと慣れた。」
 「よかった。」

 頬を少し赤らめて答えた晴香が、かわいくて仕方無かった。これから質問する内容で、晴香はもっと真っ赤になってしまうだろうな、と思うと、なんだか、聞かない方がいいような気もしてきた。
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