間接キス
 「あのさ、晴香。」
 「なあに。」

 僕だから、僕だけにしてほしい、そう思いながら切り出した。

 「昼休みに、鳴らなかったリードくれたでしょ。」
 「うん。」
 「あれさ、水洗いとかした?」

 晴香は突然の、あまりに意外な質問が来たことに、思考停止してしまったようだった。その様子がおかしくて、思わず笑ってしまった。

 「してないけど。っていうか、何で笑うの?」

 なぜそんなことを聞かれなくちゃいけないの、という顔をしていた。そんな不思議そうな顔をしている晴香の額にそっとキスした。

 「今のは……直接キスだよね。」

 突然のことにビックリしながらも、晴香はコクンとうなずいた。

 「じゃあ、リードは?」

 晴香は質問の意味を少し考えて、ふと思い当り、顔を真っ赤にしながら答えた。

 「間接……キス、だったね。」
 「昼休みの時に、僕がなんで男子の後輩って付け加えたか分かる?」

 晴香は激しく何度もうなずいた。やっぱり気が付いていなかったらしい。自分が鳴らなくても他の人ならピタッと合うこともあるのかも、という単純な興味のみでリードを渡したということだ。

 僕は晴香の肩に腕をまわして、ぎゅっと抱きしめた。
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