間接キス
 意識しすぎ。

 そうだろうよ。そうだろうけど、晴香は何も思わないのか、このこと。だとしたら…

 「奏太?どうしたの?」
 「いや、何でもない。」
 「顔、赤いけど。」
 「…いや、何でもない。」

 晴香がいぶかしげな顔をしていた。手早く楽器をしまい、教室へ走った。

 晴香が同じことを…他の男子にやったりしたら、たぶん、僕は正気を保てない。けれども、晴香はそのことに気がついていない。困ったもんだという気持ちと、このことを突っ込んだらどういう顔をするんだろうという、いじめたい気持ちが同時に湧きあがった。

 「晴香。」
 「なに?」
 「…いやなんでもない。」
 「はい?」

 いや、こんなことで部活を休んで云々なんてことを、一瞬思い浮かぶ僕の方がおかしい。今日は休むという言葉を寸前で飲み込んだ。晴香は頭の上にハテナを数個浮かべたような表情をしていたが、ちょうど先生が来ていたのもあり、しぶしぶ教室に入って行った。
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