間接キス
 「あのさ、あんまりのろのろしてると先輩来るぞ。」
 「分かってる。あのな、どう思うかを聞きたい。」
 「何?」
 「晴香のことなんだけれども。」
 「あ?何かやらかしたのか?」
 「いや違う。」

 泰一郎の顔を見ると、こんなことを聞くなんて、時間の無駄だしバカという答えしか返ってこなさそうな気がしてきた。大体トランペット吹きの泰一郎と、リード楽器を使う僕とでは考え方が根本的に違う、かもしれない。

 「リードをさ……くれようとしたんだよ。」
 「……もらっとけ。練習行くぞ。」

 リードのやりとりぐらい勝手にしろと言わんばかりのあきれ顔で、その場を立ち去ろうとした泰一郎の腕をつかまえた。

 「だーかーらー、晴香ちゃんが音出なかったリードぐらい、もらってやれよ。」
 「う……。」

 金管はマウスピースだし、組み立てる様子なんかそんなに気にしないだろうから、理解してもらえない、というような気がしてきた。

 「行くぞ。」
 「リードってさ……」
 「なんだよ!」
 「音出す前に、口で湿らせるんだよ。」
 「はい?」
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