【特別番外編】雨あがりのチューリップ
☆*:.。. .。.:*☆

◇梨乃side◇


「えっ?」

うそでしょ……。


振り向いたらセンセイがいない。

確かに私がふらふらと歩いてたかもしれないけど。
でもまさか本当にはぐれちゃうなんて。


自分の手のひらに視線を落とした。


――――手、繋ぎに行けば良かったな。


照れと、遠慮から、一度も手を繋いでどこかを歩いたことがない。

さっきも頑張ってさりげなく手を繋いでみようかな、なんて考えたんだけど……やっぱり考えるだけで終わり。


「はぁ…」


久しぶりに会って、遊園地なんてガラじゃなさそうなところに誘って、手も繋げないで、気付けばセンセイがいない。

まだ日は高い所にあると言うのに、私の心は今日が終わってしまったかのように寂しくなる。

俯いていた顔をもう一度上げ、辺りを見回す。

けど、やっぱりセンセイの姿が見えない。

――センセイなら、視界に入ればすぐにわかるのに。


「わぁぁあぁ、どうしよう」


ぐるりと見回した直後に、近くで、ものすごく困ったような声がして振り向いた。

そこにいたのは優しそうな雰囲気の男の人。
声だけでなく、表情もものすごい困ってる。

――なにか落し物でもしたのかな? それとも…


「千秋がいない…」


あ。私と一緒だ。


「えーと、えぇと…さっきまで、ここに……」


きっとセンセイと同じくらいであろう男の人が、うろうろと落ち着きなく漏らしてる。


「ん…?」

あ! マズイ。見過ぎちゃった…!

私の視線に気がついたその人は、きょとんと私の顔を見た。


ど、どうしよう……。今から目を逸らすのもあからさまだし、かと言って掛ける言葉も…。


すると、私の気まずさなんて関係ないかのように、その人はにこっと笑って言った。


「どうかしましたか?」
「えっ……」


どうかしたか、と聞かれたら――…。


「もしかして、一緒に来た人とはぐれてしまったり? っていうのは僕のことなんですけどね」


その人は、はにかむようにして私に言う。


――不思議な人。

普段なら、自分から見ていたとはいえ、声を掛けられたものならきっとすぐに逃げ出してしまうのに。

なんか、まるで初めて会った感じがしないような、そんな空気を持つ人だ。


目を丸くして、黙っていた私にその人は苦笑して続けた。


「ああ、すみません。見ず知らずの男が話しかけたりしたら、そりゃ怖いですよね……?」
「……いえ。本当に、そうなんで」
「え? 本当に?」
「……はい。それで、つい、同じ状況っぽいあなたを見てしまって……すみません」


私は思い切り頭を下げて謝った。
そして顔を上げて、その場から離れようとした時だった。


「――あの」


そう呼び止められた私は、足を止めて振り向いた。


「僕も同じ状況ですし。この辺りを一緒に捜してみませんか?」








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