【特別番外編】雨あがりのチューリップ


「……え? そんな……」


突然の申し出に、一瞬止まってしまった。

冗談言ってるようには見えないし。
この人……世話好きなのかな?


「僕も、この歳で迷子センターに行くのは気が引けるので」
「……」


その人はさらにそんな理由を口にしたから、なんだかとっても不思議に思って見てしまう。


「なにか……僕の顔についてますか?」
「あっ! い、いえ……その、おいくつなのかなぁ、と……」
「僕ですか? 32です」
「えっ!」


さ、32⁈
てっきり、センセイと同じくらい――二十代に見えちゃった。


「そんなにびっくりしますか?」
「あ、いえ。ごめんなさい。私の知ってる人と同じくらいかと思ってたので……」
「もしかして、その知ってる人っていうのが、今捜してる人ですか?」
「……はい」


こう答えたら、自ずとわかっちゃうよね。相手が“彼氏”ってこと。

こういうテーマパークにくる人の大半はカップルなんだから、珍しく思われることなんか絶対ない。
なのに、やっぱり“彼氏”とか言うのは慣れなくて、どうにも恥ずかしい。


そんな恥ずかしい顔をどうやら私はしてしまってたみたいで……。


「とても大切な人のようですね。早く捜さないと」
「あ、でも」
「僕の捜してる人も、とても大切な人なんです。少しだけ、きみに似ている気もします。一緒に捜してくれますか?」


この人は、恥ずかしげもなく言えるんだ。
『大切な人』――って。

なんだかちょっと、羨ましい。センセイは絶対、そんなこと誰かに言ったりしないんだろうな。


まぁ、どうみてもこの人はセンセイと違うってわかるけど。



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