【特別番外編】雨あがりのチューリップ
◆真山side◆
天気のいい休日の今日。
昔、学生の時のレクリエーション以来か。こういう場所に来たのは。
激しい乗り物は苦手じゃないが、誰かと来ようと思うことがなかった。
今まで誘われることがあっても、やっぱり乗り気になる相手でもなかった気がする。
そんな俺が、久し振りに足を踏み入れたテーマパーク。
ことの発端は、もちろん、あいつ――――。
『あの、センセイは乗り物とか……苦手?』
『――――別に?』
『そう、なんだ……』
『その手にあるチケットの期限は?』
あいつが俺のクラスから卒業して2年経った。
ということは、付き合ってから2年経過しているという計算になるのに。
未だにあの頃と変わらないな……。
広い敷地内で一人立ってた俺は、そう思って溜め息を吐いた。
「……」
さっと辺りを見てみるが、やっぱり姿が見えない。
ポケットから出した携帯で捜しだす名前は【梨乃】。
『――――留守番電話サービスに接続します』
「……バカ」
耳に当てていた携帯を降ろして、ポケットに突っ込む。
そしておもむろに振り返り、歩き出そうとした時だった。
「きゃっ……! ご、ごめんなさい! ちょっと人を捜してて……よそ見してました!」
ドンッと思い切り人とぶつかって、その相手が勢いよく謝った。
「――――いや。俺もそうだから。悪かった」
俺も謝ると、その女の子は俺の顔を見て口を閉ざした。
似たような境遇の人間は、このテーマパークではたくさんいるだろうけど、まさかこんなに近くにいるなんてすごい確率だ。
「捜してる、って、電話は?」
あまりにこの珍しい状況に感心した俺は、柄にもなく、その女の子に話しかけた。
「え? あ、はい。したんですけど……その人の携帯、アクアスポットで濡れちゃうから、と、私のカバンに預かってたの忘れてて……」
「そう。それなら仕方ないな――――……なに」
頷ける理由を語った後、その子は俺を見てまた黙る。
けど、なんか言いたそうな、なにかを思ってそうな感じだ。
――教え子でいたのか? いや、でも、大体の生徒は覚えてる。見覚えがない。
「あっ、いえ! なんでもないです!」
慌てて手をぶんぶんと振る彼女を見て考えた。
「ああ。俺も電話すればいいのに、って思った?」
「え? あ、そう言われれば――」
そう思ったわけじゃないのか……じゃあなんだろう?
俺は何かその子の視線に引っかかりながらも話を続けた。
「電話しても、気付かないらしい。つーか普通、真っ先に携帯の存在思い出すよなぁ?」
「そう、ですね。普通なら……」
「んっとに、どっか抜けてんだよ、あいつ……」
梨乃を思い出しながらそんな話をして、目の前の子を見る。
「……? なんですか?」
「――や、なんでもない」
なんか、ちょっと、似てないか……?
不思議そうな顔をしているその子が、梨乃に見えてきた。
いや、梨乃よりしっかりしてそうだけど。
なんか、どこか通ずるものがある。見た目はハタチそこそこなのに、やけに大人びてる感じとか。
でも、話すとそんな感じだけじゃなかったり。
「ああ、この辺なら一緒に捜そうか? 多分こっちのが携帯の存在に気付けばすぐ合流出来るし、そのあとそっちの相手を捜したらいい。人手が多い方がいいだろうから」
こう見えて、わりと面倒見のいい性格だ。
学校の女子は、ほとんど下心あるってわかるやつが多いから放っておくが。
この子は、そういう空気を持ってない。
それと、あいつに似てる気がして放っておけなかった。