【特別番外編】雨あがりのチューリップ
その子がものすごい興味があるように聞いてくるし、梨乃を見つけるまで、まだ時間がかかりそうだし……会話を途切れさせるのもな。
そう思って、その質問に答えることにした。
「計算なしで、すげぇ直球勝負かけてくるやつ」
他の生徒とは違って、小細工とかしないで、何度もぶつかってくる、怖いもの知らず。
「だから数学は苦手だったけど」
「数学?」
「――ああ。俺、数学教えてるから」
「えっ」
ちょっと口を滑らせ過ぎたかとも思ったけど、別に隠すことでもないし。
だけど俺が言った言葉に、その子は必要以上に驚いた声をあげた。
「せ、先生……?」
? なんだ?
“先生”と出くわすと、なにかマズイことでもあるのか?
さすがの俺も、ついさっき言葉を交わし始めた人の思考までは計算できない。
「現役高校教師だけど」
「う、うそ!」
――尋常じゃない驚きだな。
なんだ。なんでそんな反応をするんだ?
「……そんなに、俺が教師だったらマズいのか?」
聞いてみると、彼女は無言でぶんぶんと頭を横に振った。
だけど、絶対なにかある。
俺もそれ以降無言でいると、その子がこの雰囲気に耐えられなくなったのか口を開いた。
「……私の捜してる相手も、先生なんです」
「は?」
「その、だから……もしかして、二人は知り合いだったりするのかな? とか思いまして……」
……そういうことか。
相手が“先生”。で、見た目が梨乃と同じくらい。だとしたら、自然に考えれば――――
「教え子、か」
「!!」
びくっと肩を上げて俺を見るから、俺は軽く息を吐いて言った。
「別にいいんじゃねぇ? それに、俺とその教師が顔知ってるなんて、そんな偶然そうそうないだろ」
世の中に何人教師が居ると思ってんだ。
それに――俺と梨乃も同じだ。
そう答えた俺を見上げた彼女の大きな瞳が、ふと、空に向けられた。
「――――雨?」