【特別番外編】雨あがりのチューリップ
◆真山side3◆
「ご……めんなさい」
『しまった』と言うような顔をしてぽつりと謝る梨乃を見て、わざとまた深い溜め息を吐く。
「……お前、携帯電話の使い方、知ってるか?」
「え? ――――あ」
「どんだけ抜けてんだよ」
盛大な溜め息と同時に、あの一緒に行動していた『千秋』と呼ばれた子の隣の男と目が合った。
――――こいつは
「お……んだ、先生」
「――真山、先生?」
まさか――本当に顔見知りの教師が“連れ”だったとは。
「え? やっぱり知り合いだったの?」
ガラにもなく、本当に心から驚いた俺はしばらく思考回路が停止して、梨乃の言葉に反応出来ないで突っ立っていた。
そんな俺より先に口を開いたのは、あっちの方だ。
「お久しぶりです」
「……はい」
「まさか、こんなふうに再会するなんて想像もしてませんでした」
……そりゃ、俺もだよ。
彼は恩田先生。
大学も一緒の先輩で、一度同じ学校に赴任したことがある。
なにか確執があったわけでもないし、特段仲が良かったわけでもない。
だけど俺は、この“恩田先生”を覚えてる。
「きみの“大切な人”は真山先生だったんですね」
「えっ、あ……はぃ」
恩田先生の言葉に梨乃が消え入るような声で答えて、小さく頷いた。
「“あの”真山先生が、ねぇ……」
一体、何を言うつもりだ?
なんとなく、嫌な予感がした。
恩田先生は、再びチューリップへと視線を移し、あの頃と変わらない、優しい声で言った。
「チューリップの花言葉、真山先生はご存知ですか?」
「は……?」
何を突然に。
そう思っていたら、本当に一瞬――きっと俺しか気づかないくらいの一瞬だけ。
恩田先生は、クスッと笑った。
「“博愛”――平等に愛すること。の意です」
なんだか授業聞いてる錯覚に陥ってきた。
この恩田先生は、そういう話術を持ってると、昔から感じてた。
職員にも生徒にも、自然と“聞かせるチカラ”を持ってて――天性のものだ、と。
「僕は、この花言葉が真山先生にぴったりだと思っていました。つい先程まで」