『アナタさ、』
しかも前を向いてるわけじゃなく、椅子の向きを変えて私の方を向いている。
その肘は、私の机の上にあった。
「四時間目は倫理だったよ」
彼の低すぎない心地いい声が近くで聞こえて、少し胸が締め付けられる感覚がした。
…なんだか心臓に悪い。
「ありがとう…どうしても思い出せなくて…」
「ククッ」
……今、笑った?
私、何か面白いこといったっけ?
「アナタさ、面白いね」
「……はい?」
アナタと呼ばれたこと、面白いとはっきり言われたことに、衝撃を受けた。
「だってさ、本当の日直は僕なんだよ?」
…あ、確かに。
なのに私はありがとうって言ったから笑われたのか。
…それに、彼の一人称は僕なのか…
意外なことに気づいてしまった。
それにそれに…
彼は今、確かに笑った。
いつも無表情な彼が。
見つめていると、彼はまた無表情に戻ったけど。
貴重なものをみてしまった。